1024号室

納得のいく首輪を探しています

Vフォーベンデッタpart3

道を選ぶとは、なんだろう。自由とは何だろう。そんなことをよく考えるし、この映画はまさに、そんな思いを強くさせる。

 

 

 

僕の人生には、多くの障害があった。殆どの時間、そこに呆然としていただけのような気もする。邪魔をされたし、多くのことを、諦めさせられた。

 

 

 

ただ、障害というものは、僕の歩みを阻んだだけじゃなかった。

 

 

 

障害は、僕にとってのガイドにもなった。障害がなければ、僕は、ただ、人生のだだっ広い野原に、立ち尽くしていたろう。障害があったからこそ、その向こう側に道を見出した。障害に問われ、障害に導かれ、ここまで歩んできた。障害は、何をどうやっても動かせない門だった。それと取り組むことが、僕にとって、進むということだった。

 

 

 

障害が、僕の人生に、意味と道をもたらした。

 

 

 

この世には、素晴らしい人間がいる。彼らはなぜか、苦しみを背負っていた。なぜ、そんな宿命を背負いながら、そんな素晴らしい功績を、人間性を、獲得できたか。なぜなのか、ずっと不思議だった。自分もそうなれたなら、と、ずっと思ってきた。

 

 

 

ハンデを背負いながら、障害に阻まれながら、どうして自分の道を、突き進めたのか。そこには、僕には想像もつかない意思だとか、根性だとか、僕には到底知る由もない何かがあるんだろうと思っていた。

 

 

 

 

 

でも、本当は違う。彼らは、重い宿命を背負わされたからこそ、羽ばたいたんだ。縛り付けられたからこそ、あんなにも高くまで、飛び上がったんだ。

 

 

 

Vは、政府によって、化学実験の被験者にされた。挙句、全てを奪われた。仮面を被らなければ、人前に姿を現せなくもなった。そんな不幸がなければ、彼はVにはならなかったろう。普通に生きて、平凡に死んだろう。

 

 

 

流石に、そんな平均的で、平凡な人生を侮るような青さは僕にはない。それでもやっぱり、彼は、苦痛から、抑圧から生まれたのだし、だからこそ、それは面白い。

 

 

 

 

 

檻は脱走者を生み、耐えられない想いは詩を生んだ。科学がどう解釈しているかは分からないけど、爆発の本質は、抑圧の方にある。ギュッとやるから、バーンとなるんだ。

 

 

 

国に捨てられ、世間に無視され、それでも闇に逃げ込まずに生きていこうとする人間が、愛というものに目覚める以外、一体どんなやり方があったろう。他に、どうしようもなかった。手は尽くした。それでも、これ以外にやりようがなかった。これは本当に、不自由と言えるだろうか。

 

 

 

他のすべての扉が閉じた。さあ、目の前の扉を開けよう。これは、僕は、自由だと思う。

 

 

 

不自由の仮面を被った、自由だと思う。

 

 

 

Vの、いや、彼だけじゃない。自分の道を、力強く生きていこうとする全ての人々。彼らが滾(たぎ)らせた、高温の情熱が溶かした僕の氷床は、高密度の意思が貫いた僕の柔い幻想は、それは大切な、かけがえのない遺物として、僕の心の隅に転がっている。

 

 

 

男には、あんな立ち方があるんだ。

 

 

 

何がVを作ったのか。そんなことを考えていると、ふと、彼のことを思い出す。

 

 

 

将来って何だ。どうやって人間は道を選ぶのか。そうやって考えていると、彼を思い出す。

 

 

 

彼というのは、十代の頃に失った、僕の友人のことだ。

 

 

 

不意打ちのように、暖かい冬の日だった。不意打ちのように、彼の訃報を聞いた。僕は、何が起きたか分からなかった。全く実感が湧かなかったし、何の整理もつかなかった。でも、周りのみんなは、彼は亡くなったというし、彼からも、何の連絡も来ない。彼は亡くなった。理屈ではわかった。ような気がした。

 

 

 

彼とはよく、一緒に登校をした。よく話をした。将来どうなりたいのか。彼からよく聞かれた。彼は、饒舌に語った。作家になりたい。高給取りになりたい。将棋指しになりたい、そんなことも言ってた気がする。遠い思い出の中で、彼の声がする。

 

 

 

 

 

僕は、何も答えられなかった。「将来」という地点まで、生き延びているか分からなかったし、その頃から、精神病に陥って、苦しんでいた。それどころじゃなかった。何も、自分のことを知らなかった。

 

 

 

彼には、たくさんの夢があった。ああなりたい。こうなりたい。

 

 

 

そして、彼はいなくなった。彼は、自ら命を絶った。理由はわからない。方法もわからない。僕は、彼の最後について、何も知らない。分かっていることは、彼はもういないということだけだ。

 

 

 

彼は、火葬された。煙になって、骨になった。粒々になって、いろんな場所に行った。

 

 

 

土になった。海になった。春風になった。

 

 

 

彼の望んだ通り、彼は、あらゆるものになった。

 

 

 

ただ、ついに、彼は、彼だけにはなることができなかった。

 

 

 

僕は、今まで、教師に、周りの大人に、彼に、何度も将来の夢を聞かれた。「お前はどうなりたいんだ?」

 

 

 

その場しのぎの答えなら、たくさん出した。でも、本心から、そのことを考えたことはなかった。

 

 

 

ずっと、答えてみたかった。

 

 

 

色んなことがあった。色んなことを考えた。今なら、こう答えてみたい。かつての教師にも、僕を知る人たちにも、居なくなった彼にも。やっと言えるようになった。

 

 

 

僕は、自分になりたい。                                                                                   2019.09.19